【M&A事例4】建築材料・板硝子販売会社の株式譲渡(愛知県、売却理由: ハッピーリタイア / 買収理由: 事業拡大)
株式会社オハナ不動産は、株式会社フォーナレッジと業務委託契約を締結しています
愛知県事業承継・引継ぎ支援センターさまからご紹介・ご縁をいただいた、愛知県にある建築材料・板硝子販売会社さまの売買についてのご紹介です。
売主さまの会社は愛知県で創業から102年の歴史を持ち、建築材料・板硝子の販売から、加工・組み立て・運搬・施工までを自社で一貫して行う会社。地域密着で、地元の工務店や個人のお客さまはもちろん、自治体からの信頼をも得ており、特にアルミサッシや板硝子について規格製品ではない一品ものの対応を得意とする会社。高い粗利額を実現していることが特長です。
事業承継・引継ぎ支援センターさまからご紹介をいただき、2023年4月に初回面談。社長は60代の男性、「ハッピーリタイア」を売却理由として考えていらっしゃいましたが、同時に「後継者不在」という課題も抱えてらっしゃいました。社員3名の継続雇用を強く希望され、ご自身の社長業務の引き継ぎも可能とのお考え。さらには、売却後も会社に残り、取引先の引き継ぎや一品ものの対応についても承継したいとの想いもお持ちでした。
当初は事業譲渡で検討を始めたものの、同社が有する不動産賃貸事業は今回の対象外とすることから、「会社分割(分社型分割)」で対象事業(建築材料・板硝子販売事業)を切り出した後に株式譲渡を行うスキームへと変更する方が適切であると判断。これは、「会社分割」は事業に関する権利・義務を包括的に承継できるので、雇用契約等を個別に再契約する手間を省けるメリットがあるためです。
- 分社型分割(新設分割)
- 分社型分割(新設分割)とは、会社がある事業に関する権利義務を新たに設立する会社に包括的に承継させる、M&Aの一手法です。この場合、分割元となる「分割会社」がその事業を切り出し、設立された「承継会社」は分割会社の100%子会社となるのが一般的です。事業譲渡と異なり、雇用契約や債権・債務契約を一つひとつ再締結する必要がなく、契約関係を包括的に引き継げるのが大きな特徴です
そして同年7月、ご用意いただいた必要書類をもとに概要書とノンネームシートを作成。譲渡案件情報としてポータルサイトや当社管理の名簿顧客約5,000件の方々へ情報開示すると、4ヶ月間で計9件の問い合わせを獲得できました。
売主さまにはすべてご確認いただいた上で、売却先として希望される業種やエリアに合致する候補の会社さまへは詳細な情報(会社名・所在地・業務内容・業績・社員名簿・得意先名簿など)を開示。そのうち、半数の会社さまとの面談を用意できました。
そのうちの一社に、のちに買主さまとなる、愛知県でガラス工事業・建築リフォーム業を営む会社さまがいらっしゃいました。現状、新築やリフォーム工事のサッシ取り付けで業績は好調ではあるものの、新築は今後減少の一途であることから、「既製品のサッシ取り付けだけでは厳しくなる」と感じているとのこと。そして「今いる社員たちの仕事をなくしたくない」との強い想いから、「まったく知識のない分野ではなく、関連する新たな分野(建築材料販売等)での事業拡大にチャレンジしたい」とM&Aを検討され、問い合わせをいただいたのです。
まだ、M&Aの知識はあまりお持ちではないとのことでしたので、まず弊社担当者と1時間程度のZoom面談を実施。「事業を承継するとはどういうことか?」と、その基本から丁寧にご説明することから始めました。次いで、売主さまの業種・業態・業績、そして売却理由についても詳しいご説明を。
その事前面談を行なった上で、2024年1月中旬に売主さまと買主さまとの初回面談を、売主さまの事務所で実施しました。面談後には、売主さまの会社の作業場を見学。売主さまは「売る理由」を、買主さまは「買う理由」をお互いに率直にお伝えになり、お互いに「お互いの考えは近い」とお感じになった様子でした。のちに伺ったのですが、売主さまとの面談を通じて、買主さまは売主さまへ尊敬の念を抱かれ、売主さまが社員さんと一緒に仕事をされている姿を見て、とても楽しそうだとお感じになったそうです。
そうして心を決めた買主さまは、「意向表明書」を提出。翌2月には、買主さまの会社にて2度目の面談を実施し、「基本合意契約」を締結されました。
- 意向表明書
- 買収希望者が売り手に対して買収の意思を正式に伝える文書です。買収条件やスケジュール、独占交渉期間などの基本的な合意事項を記載し、今後の本格的な交渉やデューデリジェンス(買収対象企業の詳細な調査)の出発点となります
- 基本合意契約
- M&Aにおいて買い手と売り手が主要な取引条件に一定の合意をし、その枠組みを文書化した契約です。価格やスキーム、独占交渉義務などを定め、今後の本契約に向けた交渉の土台となります
基本合意後には、買主さまの税理士さんとのやり取りもはじめ、売主さまから買主さまへの情報共有も開始。「財務デューデリジェンス(財務DD)」を実施するために、売主さまには多岐にわたる資料をご準備いただきました。
- 財務デューデリジェンス(財務DD)
- M&Aに際して買収対象企業の財務状況を詳細に調査・分析するプロセスです。具体的には、過去の損益状況、貸借対照表の内容、キャッシュフロー、債務の有無、簿外債務のリスク、将来の収益見通しなどを精査します。これにより、買収価格の妥当性を判断したり、将来的な財務リスクを洗い出したりします。また、粉飾決算や不適切な会計処理がないかを確認する目的もあり、買収後の経営判断にも大きく関わる重要な工程です
具体的には、
- 会社組織図
- 株主名簿
- 会議議事録
などの会社概要に関する資料をはじめ、
- 決算報告書
- 勘定科目明細
- 試算表
- 総勘定元帳
といった財務諸表関連の資料、さらには、
- 売上・粗利の詳細分析資料
- 従業員関連資料
- 現金預金
- 売上債権
- 固定資産台帳
- 仕入債務
- 退職金制度関連資料
- 税務申告書や納税関連資料
などです。
既にご用意いただいていた資料(会社案内・登記簿謄本・定款・従業員名簿・決算報告書・勘定科目明細・個別注記表・固定資産台帳など)に加えて、これだけ多くの資料をさらにご準備いただくのは本当に大変なのですが、「財務デューデリジェンス」の実施には必須です。
そして、2024年5月中旬、「分社型分割(新設分割)」による事業承継と株式譲渡を実行しました。新設分割計画書の作成や会社登記の準備を進め、分社型分割後の株式譲渡契約書、さらには、売主さまとの顧問契約書(売却後の経営全般の相談、顧客紹介を委託)までを作成。この複雑なスキームを関係者(売主さま・買主さま・司法書士・金融機関・税理士)全員にご理解いただくために、「分社型分割」の説明図を作成するなどの工夫を凝らした甲斐もあり、滞りなく無事にこのM&Aを成功させられました。
今回の事例は、売主さまご自身の「ハッピーリタイア」という前向きな決断と、しかし「後継者がいない」という現実の間で揺れる中での「社員の雇用を守りたい」という強い想いを。また、買主さまの「将来を見据えた事業拡大」と「社員の雇用を守りたい」という強い想いを、M&Aによって実現できた、正に全国の多くの経営者さまにとって示唆に富む好例と言えるでしょう。
その後、売主さまは週末は地域ボランティア活動へ、平日は顧問として出勤されるようになりました。まるで何ごともなかったかのように、今まで通りに業務をこなされながら、買主さまへ丁寧に仕事を伝えてらっしゃいます。買主さまも、売主さまが持つ知識と技術、一つ一つに尊敬の念を抱かれ、一緒に事業をもっと伸ばしていきたいという意欲に燃えているそうです。